美雨の部屋へようこそ

世界の旅日記や 文化、歴史のぷち・エッセイを書いています。他にも海外、国内のお気に入りのドラマのあらすじ&感想を勝手気ままに綴っています。

Entries

アンダルシアの詩人王モタミッド もう一つのイスラム世界史

予約投稿
アンダルシアの詩人王モタミッド ~知られざるイスラム世界史~

熱い南風に乗って蝉時雨が響いてくるこんな季節、もくもくわき立つあの積乱雲のように、こころもまたワザワザしますね。
ひんやり冷やしたシードルに氷をカランコロンと入れて、のどごし爽やかに味わう至福のひとときは、あのアンダルシアの噴水のような清涼感を呼びさまします。
偶然見つけた ある古い王と王妃の物語にこころ惹かれ,ふたりの軌跡を追ってアンダルシアを訪れたのは、丁度こんな季節でした。

アル・モタミッドと王妃イティマッドの小さな、されど壮大なロマンス。
日本ではまだ未公開のようなので、このたび美雨ブログで訳と解釈を添えてご紹介したいと思います。

コルドバのモスク(メスキータ)内部
コルドバに残るイスラムのモスク(メスキータ、スペイン)


モタミッド王の紹介にあたって、イベリア半島のムスリム(イスラム教徒)の歴史的背景を少し。

イスラム帝国の紛争に於いて、ウマイヤ朝がアッバース朝に滅ぼされると、ただ一人生き残ったウマイヤ家の王族アブド・アッラフマーン1世はアフリカを経てジブラルタル海峡を越え、アンダルス(イベリア半島、スペイン)に逃れ、756年にムサラの戦いに勝利してコルドバにウマイヤ朝を再興します。
これを世界史では「後ウマイヤ朝:こうウマイヤ朝」と呼んでいますが、後ウマイヤ朝はアッバース朝に匹敵するほどに繁栄し、世界でも有数の大都会となりました。
史料によると人口は50万を下らなかったと言われ、実際、西欧で最大の都市となったのです。コルドバは洗練した文化の都でもあり、例えばクリスタル・ガラスの製法は9世紀後半にコルドバで生まれ、金銀細工の技術も最高水準に発達しました。


1031年のイベリア半島当時のイベリア半島
1031年のイベリア半島



この、「後(こう)ウマイヤ朝」統治下では、さまざまな宗教や民族が共存しえたことが、この王朝の繁栄に大きな貢献をもたらしたのも事実で(一部のキリスト教徒は移住したものの)大部分はイスラムの支配下で信仰の自由を許されて暮らしました。ユダヤ教徒も西ゴート王国時代には冷酷な扱いを受けることが多かったのに対し、イスラム支配下では自由と繁栄を享受しました。また、イスラム文明が極めて高度な文明であったので、それを土着イベリア人(スペイン人の先住民ガリア、ケルト、ローマ、ゴート族などの民族)がすすんで受け入れたことも安定したムスリム(イスラム)社会を形成した理由と言われています。

しかし、繁栄を誇った後ウマイヤ朝も、継承者争いと、カスティーリャ・アラゴン王国連合のレコンキスタ(国土奪還運動)により衰退し、1031年に最後のカリフ、ヒシャーム3世が追放されたことによって、26とも30とも言われるタイファ(独立した各地のイスラム諸侯たちの首長国あるいは 小王国を指す)となって分裂割拠する時代を迎えます。今日は、そのタイファ王国のひとつ、セビーリャ王国(アッバード朝)の王で、知られざる中世アンダルシアの詩人王、モタミッドの生涯を紹介したいと思います。



モタミット王の生涯
モタットの生涯   セビージャ地方の歴史本



詩人王モタミッドの生涯

1029年、コルドバのカリフ政権から独立したベン・アバッド家による王朝の創始者、モハメッド・ベン・アバッド・アブ・アル・カシムの孫にあたるアル・モタミッドは、イベリア半島(今のスペイン)における歴代イスラム王の中で、最も偉大で栄光に満ち、同時に不幸な生涯を辿った人物です。

本名は、Abû al-Qâsim Muhammad “Al-Mu`tamid”(英) ben Abbad1Al Motamid・ビラー・イブン・アバッド。父王アル・モタディの後継者として即位しましたが、とりわけ詩歌を愛好しました。
生粋のアラブの血統ならではの特徴が結集した資質を備えており、利発で慇懃かつ寛大、雄弁の才と温情心に満ちていたと言われています。しかしながら、アラブ人が持つ一方の特性、イスラム戦士に特有の狂気や暴虐さは持ち合わせていなかったため、戦いよりも平和を好み、已むを得ない情況となれば武器を執っても、つとめて流血を避ける方策を選び、避けられない事態においてもなお、慈悲の心を示す王でした。
イスラム教国もキリスト教国も含めて、イベリア半島に群雄割拠する小国の共栄共存を図った、この王の理念は、後代のイタリア・ルネサンスの時代になって評価されていることでも、王の統治ぶりを推測することができます。
しかし、王が抱いた理想は、同時代の現実には適応できずに、その影響力を削ぎ取ろうとする勢力の嫉妬や怨恨や敵愾心を招いて、結果として夢は灰燼に帰すのです。



モタミッドが支配下に置いたコルドバのアルカサル
コルドバのアルカサル

アラビアンなイラスト



モタミッド王の愛

王には若い頃から宮廷で誼を結んでいた詩友がいました。コルドバ出身でセビーリャに居住していたアベンアマールでした。哲学にも通じて、優雅な調べを詠み、時には即興で見事な詩を諳んじることにも長けていた貴公子です。
ある時、王は親友のアベンアマールと共に、グアダルキビールの河畔を散策していました。折りしも 日没の暮色を反映させながら、微風にさざなみが立ち、一瞬美しく輝やきました。王はこの光景を見つめて感動を覚え、傍らのアベンアマールに、すぐに即興で詩に表現するように求めました。

 吹く風を受けて 川面は鎖帷子(くさりかたびら)と化したり・・

モタミッドは、アベンアマールが起句した2行に続く対句となるフレーズを待ちました。しかし、彼は次の句に窮してしまいました。その時、彼らの背後から、甘い調和に満ちた女の声で吟じる言葉が聞こえてくるではありませんか。

 吹く風を受けて
 川面は鎖帷子と化したり
 かくも見事な鎖帷子はあらず
 決して凍らぬ川なれども


韻の踏み方は完璧で、隠喩の効果が見事です。冬も温暖なセビーリャには決して氷が張ることはありません。しかし敢えて川の水のさざなみが凍りつく光景を想像させながら、堅い鎧の鎖帷子になぞらえて、エキゾチックな意外性をイメージさせているのです。
王と詩人が振り向くと、若く愛らしいひとりの女の姿がありました。脚はすらりとした裸足です。女はすぐさま顔をベールで隠すと、まるで音楽の調べのように笑いさざめく声を響かせながら、すぐさま立ち去ってしまいました。
モタミッド王は、詩人に「気づかれないようにあの若い女の後をつけるように」と命じました。そして詩人は 女がどこに住んでいるかを突き止めると 王に報告しました。
翌日、王は 女が住んでいる家に 王のもとに謁見に来られたし、という意図を伝えるべく家来を遣わしました。

 「名は何と申す?」
 「イティマッドと申します。ですが、商人ロマイク家の召使いなので、イティマッド・ラ・ロマイキアと名乗っております」
 「夫はいるのか?」
 「いいえ...」
 「では、お前を買い取ることにしよう」

王が商人ロマイクが所有する女奴隷を売るように求めると、気前のいいい商人は、喜んでイティマッドを王に譲り渡しました。宮廷人は皆、王の一時の気まぐれだと噂しましたが、セビーリャ中が驚いたことに アルモタミッドは彼女を正式に妃に迎え 結婚してしまったのです。女奴隷は一夜にして王妃となりました。



まるで、アラビアンナイトに出て来そうなモタミッド王の数奇な生涯ーー栄華と衰亡、愛と死、勝利と敗北・・・書いていくと長くなりそうなので、前半、後編に分けることにしました。
モタミット王とイティマッドの恋の行方、お楽しみに。



美雨

もう一つのイスラム世界史2http://yonipo.blog13.fc2.com/blog-entry-809.htmlへ続く


最後まで読んでくれてありがとう
モタミッドと王妃
モタミッドと王妃より 20l2.05.03 


参考文献
余部福三 『アラブとしてのスペイン』
佐藤次高、鈴木薫・編『新書イスラームの世界史1 都市の文明イスラーム』
島崎晋『目からウロコの世界史』
ホセ・デ・メナ『セビージャの歴史的人物』
『Motamid por blas infante』
motamid último rey de sevilla
Mutamid, King of Seville, 1039-1095



★このランキングに参加しています。更新の励みになるので押して下さると嬉しいです★
にほんブログ村 歴史ブログ 世界史へにほんブログ村 テレビブログ 韓国ドラマへ

スペインにワープし セビーリャ王国の夢のあとを見たくなった人はぽちっと❤
人気ブログランキングへ
(>ω<)ポチに感謝デス♪


※旅行中につき、一時的ですがコメント欄を閉じさせていただきました。(ペコリン)





左サイドMenu

プロフィール

MIUMIU 美雨

Author:MIUMIU 美雨
旅、歴史、長編ドラマ(短編も)のレビューやエッセイを書いています。
文化系の記事が多いですが、歴史ドラマ(大河ドラマ:八重の桜)や、韓ドラレビューも書きます。中でもソン・イルグクさんの作品が大好きです。
更新はマイペースで続けていきますのでどうぞよろしくお願い致します。

過去記事は画面右上の検索フォームか左下のカテゴリー、早見表で探して下さい。

当ブログにて使用させて頂いておりますドラマ等の画像の著作権、肖像権は全て出所元にあります。当サイト内の文章の無断転載、無断トラックバックはお断りしております。

尚、此処はあくまで個人のサイトとして書いているブログであって、”公の掲示板”とは異なりますので、いきなりの複数の質問ばかりのコメント等はご容赦願います。返答致しかねます。

また、記事に関係のない内容のコメントや荒らしに該当する方、挙動不審な方は場合によって制限をさせていただきます。

最新記事

 

カテゴリ

八重の桜レビュー
1話 2話 3話 4話 5話 6話 7話 8話 9話 10話 11話 12話 13話 14話 15話 16話 17話 18話 19話 20話 21話 22話 23話 24話 25話 26話 27話 28話 29話 30話 31話 32話 33話 34話 35話 36話 37話 38話 39話 40話 41話 42話 43話 44話 45話 46話 47話 48話 49話 50話(終)

韓国ドラマあらすじ
天地人(発酵家族)
1話 2話 3話 4話 5話 6話 7話 8話 9話 10話 11話 12話 13話 14話 15話 16話 17話 18話 19話 20話 21話 22話 23話 24話(最終話)

神と呼ばれた男
1話 2話 3話 4話 5話 6話 7話 8話 9話 10話 11話 12話 13話 14話 15話 16話 17話 18話 19話 20話 21話 22話 23話

強力班
1話 2話 3話 4話 5話 6話 7話 8話 9話 10話 11話 12話 13話 14話 15話 16話(最終話)

風の国
1話 2話 3話 4話 5話 6話 7話 8話 9話 10話 11話 12話 13話 14話 15話 16話 17話 18話 19話 20話 21話 22話 23話 24話 25話 26話 27話 28話 29話 30話 31話 32話 33話 34話 35話 36話(最終話)

風の国あれこれ
その1 その2 その3 その4 その5 その6

人生画報
作品紹介 1-4話 5-8話 9-12話 13-16話 17-20話 21-24話 25-28話 29-32話 33-36話 37-40話 41-44話 45-48話 49-52話 53-56話 57-60話 61-64話 65-68話 69-72話 73-76話 77-80話 81-84話 85-88話 89-92話 93-96話 97-100話 101-104話 105-108話 109-112話 113-116話 117-120話 121-124話 125-128話 129-132話 133-136話 137-140話 141-144話 145-148話 149-152話 153-156話 157-160話 161-164話 165-168話 169-172話 173-176話 177-180話 181-184話 185-188話 189-192話 193-196話 197-200話 201-204話 205-208話 209-212話 213-216話 217-219話(最終話)

善徳女王
1,2話 3,4話 5,6話 7,8話 9,10話 11,12話 13,14話 15,16話 17,18話 19,20話 21,22話 23,24話 25,26話 27,28話 29話 30話 31,32話 33,34話 35,36話 37,38話 39,40話 41,42話

カテゴリー

FC2カウンター

右サイドメニュー

検索フォーム


会員制SNSで報酬ゲット
今なら10ドルもらえる。


海外旅行は体験談を参考に!
竜宮小僧の旅案内

上級ホテルが驚くほど安く!
海外旅行が仕事


ランキング参加してます

ポチっとお願いします▽・w・▽

ブロとも申請フォーム