美雨の部屋へようこそ

世界の旅日記や 文化、歴史のぷち・エッセイを書いています。他にも海外、国内のお気に入りのドラマのあらすじ&感想を勝手気ままに綴っています。

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大岡昇平と『武蔵野夫人』の世界

大岡昇平と『武蔵野夫人』の世界


反響があったようなので、揚げてみます
ハケの道
ハケの道

 
『土地の人はなぜそこが「はけ」と呼ばれるかを知らない。・・・・・  
 中央線国分寺駅と小金井駅の中間、線路から平坦な畠中の道を二丁南へ行くと、道は突然下りとなる。「野川」と呼ばれる一つの小川の流域がそこに開けているが、流れの細い割に斜面の高いのは、これがかって古い地質時代に・・・古代多摩川が、次第に西南に移って行った跡で、斜面はその途中作った最も古い段丘の一つだからである。・・・』

大岡昇平『武蔵野夫人』の書き出しです。


昇平の世界を知るには、地元っ子として江戸東京建物園をお勧めしています。あんな近いところ、地元の人間は行かない―というのはどこでも同じようですが、那須に嫁いだチェロ弾きの友人から「是非一度行ってみたいの!つれてって」とずっとリクエストされていので、ガイドしたことがあります。彼女は大岡正平のファンなのです。私はどちらかと言えば独歩のほうが好きなのですが、彼女は昇平の代表作『武蔵野夫人』に憧れて、映画も見たと言います。
『武蔵野夫人』の舞台となった家は、現在美術館となっていて、我が家の愛犬のお散歩コースです。那須からはるばる憧れて『武蔵野夫人』の舞台を訪ねてくる人もいるのに、単に東京の田舎と思って住んでいる地元っ子って、罪なこと(?笑)です。



1武蔵野夫人




さて、東京建物園につきました。建物園といっても、広大な武蔵野の森の中に、文人、歌人や歴史に足跡を残した人物たちの家屋を取り壊してそのまま持ってきちゃった、庭つきの明治時代の家屋が点在した、本物のお江戸のひな型。西には山の手の瀟洒な建物、(旧三井邸、江戸川乱歩の小出邸等)東は千住など、下町の情緒あふれる菓子屋や泉鏡花の仕立て屋、当時の銭湯などが建てられています。
その銭湯”子宝の湯”と鍵屋(料理屋)は、千と千尋の神隠しのモチーフともなった建物。
瀟洒な西エリヤも好きだけれど、東の 人情臭さやの汗のにおいがするような下町情緒も捨てがたいです。



東京たてもの園の一部(小金井公園内)
東京たてもの園の一部(小金井公園内)
せんとちひろの銭湯まで再現
千と千尋の神隠しのモチーフともなった銭湯”子宝の湯(建物)もそっくり移転
せんとちひろの銭湯のなか



北の小金井公園、南の野川公園(武蔵野公園)と、ここら辺は武蔵野の面影を残す森林がいっぱい。ご存知のように建物園は、小金井公園の中にあります。
欲をいえば、田園調布の大川邸(画像下)で、秋の日のヴィオロンを物悲しく奏でたくなった美雨です。
古い建築物の木の温もりと美しい木目、そして細かな細工などいい仕事の数々が手に取るよう感じられ、移築した建物の中でまるで自分の家のようにくつろいで、自分の家具をどこに置こうか、あーでぃねー、こーでぃねーと夢想してしまいます。 [建物園」等と呼ぶとちょっと堅いイメージですが、ここは、ほかの展示会場なんかと違ってそうしたオープンな雰囲気があるのです。
武蔵野の(本物の)森の中というのが、そんな気持ちにさせるのかもしれません。
大川邸の古いピアノを発見した私達はもう弾きたくなって(彼女はピアノもメチャうまです)、ねえ、弾いてみたら?なんてけしかける美雨に、ノリのよい親友はその気になっている様子・・・大川邸の客間の白いソファで、ピアノをいじる機会をねらいつつ友人と20分もくつろいでいた美雨でした。
そして、ムフフ、いざ!とカバーを開けた瞬間、 警備員キタ――((>_<))―――!!ニゲロ!となりましたが。(苦笑)



明治時代の大川亭
武蔵野夫人 大川亭2
大川邸内部
大川邸内部



さて、今日のテーマである大岡昇平に話を戻し、括りにしたいと思います。

『武蔵野夫人』は大学生になってから読みました。名前が綺麗ですし、父の育った地ということもありもっと早く読みたがっていた美雨に、ゆるーくストップをかけたのは父でした。
父いわく、父がやはり学生の時に当時の週刊誌に姦通小説の解説特集のようなのがあって、伊藤整の『氾濫』とともに紹介されていたというのです。「はけ」という地名も出てきたそうです。
また、読んで初めて知ったのですが、ロマンチックな純文学だとばかり思っていた『武蔵野夫人』は出征して復員してきた男性を愛してしまう武蔵野夫人が最後に自殺してしまうというストーリーなのです。

父の目論見は正しかったようで、あの当時『武蔵野夫人』を読むには私はまだ若すぎて、こんな世界もあるのかといった読み方しかできませんでした。大岡昇平は、自分が出征して、『野火』や『俘虜記』、『レイテ戦記』といった戦争小説を書いています。第2次大戦とは何であったのかを自ら問い続ける良心的な作家ですが、武蔵野夫人を読んだ当時は、(単に小説なのですが)私は不道徳な作家であると思いました。

『氾濫』も読みました。こちらも、戦時中に性関係を持ってしまった女性に戦後めぐりあって再び関係を持ってしまうような筋の重たい恋愛小説です。今なら渡辺淳一の小説の定番のようなシナリオの一例に過ぎないようなものですが、父が若かった当時としてはかなりショッキングな内容で週刊誌が取り上げたのだと思います。その後大学に入った父は伊藤整が一般教養の教授に名を連ねていたので、授業をとってみようかと思ったそうなのですが、もはや退官寸前で授業は持っていず、疑問は解けなかったようです。

カトリック的には不道徳かもしれませんが、戦後の性の解放という状況で、本当に人を愛するとはどういうことかという問題の提起を行っていた小説だったと思います。これらの小説へのそのような理解は、B.ラッセルの結婚論を読んだりして培われたような気がします。



大岡昇平 武蔵野夫人



土地が舞台になっていると贔屓目で二十歳以前に読んでしまったのが間違いでした。確かに結末が悲惨すぎて、あそこまで追いつめずとも...と思ったし、内容も不道徳です。でも、大人の女になってみて初めてわかる道子(みちこ)の女としての物思い、苦悶。いまだから、彼女の気持ちがとても理解できるのです。「はけ」の清水から生まれ出た精と思わせる女主人公とはけの運命がかさなって、いよいよ心細く危なっかしいところも。
時間って不思議ですよね。

でも、昔も今も変わらず好きなのはハケに対する昇平の思い、そして珠玉のような比喩表現でした。それはとても女性的で、恋人を語らうように聴こえます。
いつまでも昇平の愛した姿そのままのハケの緑と水源を護りたい、という思いが
ここの住民たちの根強い願いでもあります。

私もこの土地をとても愛しています。




美雨



❤最後まで読んでくれてありがとう❤
最後まで読んでくれてありがとう 昇平より
昇平より




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Comment

べえべえべえ様 

こんばんは。
古い日記なのに、コメントありがとうございます。
べえべえべえさんは、文学青年だったのですね!
正直、かなりマニャックな分野の大岡正平さんの本を読んでいるのは、身近な人にはいないと思っていましたが、
ブログで結構反応があったので嬉しかったのです。
映画化もされているのですよね。読まずとも、小説の名前は知れていると思います。
ただ、題名のイメージとは程とおい、生々しくエグい・・というのが殆どの実際の感想ではないでしょうか。
仰るように、綺麗事でなく、生死のはざまを生きてきた人間だからこそ、男女の不条理を書くことを天から許可もらえた、みたいな、大きなものを失ったからこそ、人間の本質を暴露できるライセンスみたいなものを、正平は誇りを持って駆使した気がします、ペンを武器に。美味く言えませんが・・・
平和なこの時代では、こうし時代小説はもう書けないでしょうね。というか、書ける人もいないでしょうね。
  • posted by MIUMIU 美雨 
  • URL 
  • 2016.07/06 18:28分 
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NoTitle 

大岡正平。。そうでした。野火やレイテ戦記の著者でした。
僕もかなり昔ですが、その戦記小説は読んだことがあります。
その印象が強かったのか、美雨さんの記事を拝見するまで、著者がそのような甘い小説が存在していたとは全く知りませんでした。
兵隊たちを描く作家が、不倫や官能的な世界を描けるとは、ちょっと見過ごしてはならないことかもしれません。
生死を生きてきた人間だからこそ、男女の不条理見たいなこと
が描けるのでしょうか。

教えてくれてありがとうございます。最近ノンフィクションばかりで小説から遠ざかってました。
機会があれば武蔵野婦人も手にしたいと思います。
  • posted by べぇべぇべぇ 
  • URL 
  • 2016.07/06 13:51分 
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tedukuridaisukiさま 

こんにちは^^いつもありがとうございます^^

文学に格付けするのもなんですが、石川達三さんのほうが格上ですし、万人に読みやすいと思います。うまくいえないのですが、品格と清潔感がありますしtedukkuriさんのイメージに合うします。
いつもお優しいコメントをありがとうございます。

  • posted by MIUMIU 美雨 
  • URL 
  • 2016.03/14 04:20分 
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Guっさん 

ご無沙汰しておりました。<(_ _)>お元気そうで何よりです。

たてものえん、(正直つまらないと思ってたのに)おお~!とうなるほど面白かったです。
へたなテーマパークよりずっとテーマがあって、おしつけがましくない、人間の創造力をかきたてる何ががあるのも良いとおもいました。
また、入園料がすごく安くて。都で管理してるのって美味しいですよね。
あはは、Guっさんもピアノに惹かれちゃいましたか?

> 次回トライされるときは是非教えてくださいね。警備員を羽交い締めにしておきますから!

はい、ぜひこちら側のガードマンお願いします。(笑)
  • posted by MIUMIU 美雨 
  • URL 
  • 2016.03/14 03:42分 
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noboseriさま 

いつもありがとうございます。^^

> 建物園 好きです なんかか行きました

本当にイメージがふくらむ、素敵な、古き良きたてものがいっぱいで、しかもそれが
全て明治時代につくられた「本物」の移転(移築)というのでびっくりでした。明治期の大工さん、本当にいい仕事してたと思いますね。
  • posted by MIUMIU 美雨 
  • URL 
  • 2016.03/14 03:33分 
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かえるママさま 

かえるままさんは文学少女だったんですね。
大岡昇平をそんなに読まれてたなんて、地元っ子でもなければ昨今は見向きもされない作家のように思っていたので、なんだか地元っ子からすると嬉しいです。(*^_^*)

武蔵野夫人は深いと思います。いまだからわかる女のもの思いと切なさ、そして歓び・・・
現実にはあんなふうには絶対なれないけど、イマジネーションのなかでロマンスが膨らむのは女の人生のアクセサリーのように思えてきます。秋山さと子さんの心理学本とも重なるなにかがありますね。^^ぜひ一度お読みください。(*^_^*)
 
  • posted by MIUMIU 美雨 
  • URL 
  • 2016.03/14 03:30分 
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NoTitle 

大岡昇平は、なぜか読んだ記憶がありません。
武蔵野夫人ってなんだか意味ありげだから
読まなかったのかな?
石川達三とか他の作家はかなり読みました。

渡辺淳一も大人になってから?ほぼ全作品を読みました。
最初のころの作品は北海道を舞台にして医者ものとか
後半の不倫などテーマにしたものはなくて
純粋だったと思うのですが、
後半は読むのが恥ずかしいくらいで…

最近は文学に触れない毎日です。
文学全集を読みあさっていた時代を懐かしく思いだし
武蔵野夫人読んでみたくなりました。





  • posted by tedukuridaisuki 
  • URL 
  • 2016.03/12 23:13分 
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管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  • posted by  
  •  
  • 2016.03/12 11:00分 
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ピアノ!! 

大岡昇平は将門記くらいで他はほとんど読んでなかったのですが、武蔵野夫人は読んでみたくなりました。
美雨さんのこの記事でもっと興味が沸いたのは東京建物園のピアノ。とても美しい音色がしそうです。
次回トライされるときは是非教えてくださいね。警備員を羽交い締めにしておきますから!
  • posted by GUっさん 
  • URL 
  • 2016.03/11 18:05分 
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NoTitle 

建物園 好きです なんかか行きました
  • posted by noboseri24 
  • URL 
  • 2016.03/11 17:12分 
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こんにちは 

今日もまた、美雨さんの世界にぐいぐいと引き込まれて参りました。美雨さんのお父様を育んだ土地を舞台にした「武蔵野夫人」はお恥ずかしながら、一度も読んだことがありません。
大岡昇平というとやはり「野火」「レイテ戦記」「俘虜記」と言った第二次世界大戦の戦記モノばかりを読んでました。
ですので、美雨さんが当時「不道徳な作家」だと思ってしまったという内容はどの様に今のかえるままの感性に訴えるのか?ますます興味津々です。
(美雨さんの「渡辺淳一の定番の様なシナリオ」との表現で少し想像できましたが。^^)
こちらの記事を拝読しまして、是非とも「武蔵野夫人」を読み、また映画も観てみたいと思いました。

数年前に東京へ出張へ行った時、華やかな若者の街、渋谷の一角に「恋文横町ここにあり」という粗末な立て札を発見した時、GHQ率いるアメリカ軍の兵隊さんに恋した日本の女性達が英語で恋文を書いてもらうために行列を作ったという「恋文横町」....それを見た時に、やはり敗戦国として道義的にどうなのか?と複雑な思いをしましたが....戦争と恋愛、このあたりも深く掘り下げて考えてみたいです。

やはり東京という土地にいらっしゃると、歴史とともにアカデミックな空気と文化人の生き様と全てが一体になって人々を高めているのではないかと思うかえるままです。


  • posted by かえるママ21 
  • URL 
  • 2016.03/10 15:26分 
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MIUMIU 美雨

Author:MIUMIU 美雨
旅、歴史、長編ドラマ(短編も)のレビューやエッセイを書いています。
文化系の記事が多いですが、歴史ドラマ(大河ドラマ:八重の桜)や、韓ドラレビューも書きます。中でもソン・イルグクさんの作品が大好きです。
更新はマイペースで続けていきますのでどうぞよろしくお願い致します。

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