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薔薇の奇跡 ~ハンガリーの聖女イサベル~

 薔薇の奇跡 ~ハンガリーの聖女イサベル~

聖イザベル
「ハンガリーの聖女イサベル」(1672年)ムリリョ作


聖女イサベル(1207-31年)はハンガリー王アンドレス2世の長女として生まれ、11才で婚約、14才で結婚、20才で未亡人、24才で死去するという、短い生涯を駆け抜けた。

幼少期は豪奢な宮廷の中で育ちながら、信心深く、貧しい人々にも目を向けた。父母から戴いた贈り物もすぐに貧者に施してしまう。絹のドレスを着て町に出ても、貧民の娘のボロ服と交換して宮殿に帰ってくるという少女だった。
11才の時、南ドイツの領主ヘルナン1世の長男ルイスと婚約、1221年に、 14才で太陽と肥沃さに恵まれたハンガリーから固く閉ざされたゲルマンの地ヴァルツブルクに嫁いだ。
政略結婚ではあったが、夫と愛し合って3人の子供を生んだ。

公妃となっても、毎日900人の貧者たちに食物を与え、領民への施しを続けた。ある時、城の物品持出しの疑いで告発された。「スカートの中に何を隠しているのだね?」と聞かれて、「いいえ、何も...バラの花です」と咄嗟に答えたが、真冬にバラが咲いている筈はない。裾を開くと、バラの花びらに変わっていたという。
ちなみに同じ話は、13世紀ポルトガルのデニス王の妃イサベルの伝説としても伝えられている。


モーリッツ・フォン・シュビント 薔薇の奇跡
モーリッツ・フォン・シュビント 薔薇の奇跡



皇帝フリードリッヒ2世の提唱で、父アンドレス2世は第4回十字軍に遠征して無事帰還。夫のルイスも十字軍に参加するが、途中で伝染病で死ぬ。
イサベルは20才で未亡人となった。
さらに不幸は続く。義母ゾフィア元大公妃と次の大公位を狙う義弟ヘルマンによって宮廷を追放される。折しもヨーロッパには大飢饉が襲った。3人の幼い子供を抱えて、母方の実家マールブルクを頼る。伯父は司教、伯母は修道院長の地位にあった。

イサベルは再婚する道を捨て、現世への執着を断ち切って、修道女として慈善病院を建てる。1226年に亡くなったばかりのアッシジの聖フランチェスコの教えを実践した。ハンセン氏病、疫病患者、貧民を収容し、素手で患者を治療した。その場面がムリリョの絵の主題である。
まもなく1231年、わずか24才で逝去する。

当時の病院には、近代な設備や薬品など一切ない。消毒もなければ衛生状態も悪い。食事とベッドを与え、患部の洗浄と薬草を調合するぐらいが関の山。平安時代なら「護摩を焚いて加持祈祷」にあたるミサ、象徴としての特効薬は聖人の遺骨などの「聖遺物」、科学ではなく迷信が支配していた時代である。その環境で2,3年で感染死するのは致し方がない。


施しするイザベル
施しするイザベル


死去した日、若い修道士が事故で瀕死の重傷を負った。彼はまだイサベルの死を知らない。伏している部屋にイサベルが現れた。「いつもは質素な服なのに、今日はどうしてそんなに美しい服を着ているのですか?」
「私はたった今、死んだばかりで、これから栄光へと旅立つのです」翌日、彼の傷は癒えた。
埋葬の2日後、不治の病で死にかけていた1人の修道僧が、イサベルの墓の傍に横たわっていると、たちまち治癒した。
このような奇跡が幾つも起こり、わずか4年という異例の速さで列聖されて、フランシスコ修道会の守護聖女となった。

ムリリョはルーベンス、ベラスケス、ティチアーノ、ファン・ダイクからの影響を多分に受けている。明暗法、遠近法、多方向からの光の効果が存分に駆使されており、細部や奥行きの表現も見事。とりわけピラミッド&スパイラル(螺旋)構図が印象的で、これが画面中の人物の動き、視点の集中効果を生みだしている。
妻を亡くしたムリリョは、1665年に信徒会のメンバーとなってこの絵画を制作した。そして聖女イサベルは慈善病院の活動の模範とされた。


聖イザベル2
不思議な温かさを感じる絵 慈愛に満ちた聖母のような表情のイサベル

彼女の生きた時代と背景・・・

13世紀のヨーロッパは「十字軍と聖者の時代」とする歴史家がいる。
キリスト教を権力の柱に据え、軍事力を背景に領主たちが覇権を唱えて、国家の原型を築いていく過渡期。後代の貴族には、この時代の戦いで殊勲を挙げて称号を授かった人々も多くいる。14世紀になると戦国の世の傾向は益々強くなるが、その前哨戦たる「統合への時代」と云えるかもしれない。

そんな中、戦いに明け暮れる世の中に疑問をもつアッシジのフランチェスコ、仲間を集めて始めた小さな教団ーーやがてローマ法王の認可を得ると、数年のうちにヨーロッパ各地に広がっていった。弟子たちは、ハンガリーからポルトガルまで、あちこちでフランシスコ修道会を創設して布教に努めた。
汎神論ともいうべき、自然と一体化した感性、信仰の対象の広大さと自由な精神、そこにはキリスト教を越えた普遍性があるような気がする。
また、殺生を禁じる仏教の教えにも通じる部分があるかもしれない。
先代の法王ヨハネス・パウロ2世は、フランチェスコを「自然環境保護の守護聖人」とユーモラスな表現をしていたし、マザー・テレサも、フランチェスコの教えに触れて修道女となったと言われている。

その陰で、中世の清教徒、南仏ラングドックのカタリ派は異端と断罪されて 徹底的な弾圧殲滅の憂き目に遭った。ちょうど同じ時期、運命が正反対に分かれた2つの教団・・・時代の選択という歴史の無慈悲さ。



聖イザベル3
聖イザベル


ハンガリーの聖女イサベルの人生・・・おそらく自分は幸福なのか、そうでないのかを、考える時間さえもなく、短い人生を生き抜いたのだろう。寿命が長いか短いか、そういう基準が無意味なことのようにさえ思えてしまう。
すべてにおいて恵まれた境遇から、自分自身の力で生きなくてはならない状況に追い詰められるまで、それは一瞬のことだったはず。
死後の出現の奇跡も、重要なのは、それが真実であるか否かよりも、魂は不滅であり、永遠の存在となって生き続けて欲しいという人々の願いの結晶である、ということなのだろう。



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Comment

makiraさま 

こんばんは^^
いつもお優しいメッセージありがとうございます。

自分の余力のなかでほどこしをする人は多いけれど、わが身を全て投げ出して、全ての財までを難病患者や貧者にささげられる人はそういないと思います。(探せば、どこかにいるのかもしれませんが・・・)

優しさや気まぐれでなしえることではもちろんないけれど、現代でこんな方がいたら、自虐とか狂人のように思われてしまうはず・・・けれど、ひとつだけ言えることは、いつの時代も、神の存在や永遠の魂を信じる“信仰の力”とは、すさまじい奇跡をおこしうる、ということですよね。
  • posted by 美雨 
  • URL 
  • 2016.01/18 20:56分 
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こんばんは! 

美雨さん、こんばんは! 
深~い、いいお話です♪笑)
人間の一生は長く生きたかではなく、生を受けた間に何を為したかですね!
それによって、死しても人々の心に長く生き続けるのですね♪
 応援P☆!
  • posted by makira 
  • URL 
  • 2016.01/18 20:46分 
  • [Edit]

tedukuridaisukiさま 

こんばんは^^
聖女イサベルは、日本では、(またクリスチャンでもないかぎり)馴染みは薄い名前だと存じます。
時代も育ちも違いすぎますが、24歳で普通の女性はこれだけの精神の成熟度とうか完成度があるものだろうか・・・と自問してしまいます。古今東西、魂の輝きとか大きさは、年齢では推し量れないものなのでしょうね。

  • posted by MIUMIU 美雨 
  • URL 
  • 2016.01/18 20:39分 
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かえるママさま 

こんばんは^^今日は東京で大雪が降りました。
雪に慣れていない私は雪かきで手はかじかんで真っ赤、二足の靴はつま先からかかとまでびしょ濡れ、涙が出そうな冷たさでした。都会のモヤシっこは駄目ですね。雪国育ちのかえるママさまを見習わねば・・・
こんな凍てつく日には、イサベルの暖かい灯に触れたくなってしまうようです。(笑)

> 以前にも書いたかもしれませんが、
> 「虎は死んで皮残す、人は死んで名を残す。」女性でもそんな生き方をされた方なのですね。

はい、以前もママさまに「世界には沢山の色んな神様がいるのはわかりますが、殺人を認める神様がいるとは思えません。こんな時ですから、 祈りの力と奇跡を信じたいです」とお言葉をいただきましたね。^^
ほんに、世の中が殺伐としてくると、正反対のものを求めたくなるのでしょうか、 残虐で世知辛い世のニュースを見ていると、聖なるもの、人間の持つ善意や慈悲を追及したくなりますね。いつも素敵なコメントを、ありがとうございます。<(_ _)>
  • posted by MIUMIU 美雨 
  • URL 
  • 2016.01/18 20:32分 
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NoTitle 

聖女イサベル様って知りませんでしたが
24歳の若さで奇跡を起こしたんですね。
歴史を見るのは好きだけど頭に入らない私…
うまくコメントできなくてごめんなさいね。
  • posted by tedukuridaisuki 
  • URL 
  • 2016.01/16 21:53分 
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こんばんは 

こちらの記事にとても感動しました。
聖女イザベルの短くとも美しく輝いた生涯に想いを馳せることができ、人生についても魂が不滅だということも考える機会になりました。

以前にも書いたかもしれませんが、
「虎は死んで皮残す、人は死んで名を残す。」女性でもそんな生き方をされた方なのですね。
  • posted by かえるママ21 
  • URL 
  • 2016.01/16 17:45分 
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そら太郎ママ様 

こんばんは^^
いつもお優しいコメントありがとうございます。
イサベルは、列聖女キアラやカタリナ、マザーテレサなどと比べると知名度は劣るかもしれませんが、
彼女をモチーフにしたムリリョの威光と、この名画が地上に存在する限り、彼女の名は不滅のような気がしています。

> 私も聖女イサベル様のように、人生の長短は関係なく、魂は不滅だと信じたいと思います。

はい、仰る通りだと思います。
現代人は寿命の長短でその人の幸せ度を測ろうとする傾向がありますが、”人間の魂は不滅”というテーマから考えると、いかに自分の思想や生きざまを世に投影できたか、で故人の充実度というか幸せ度は違ってくると思い至りますね。

  • posted by MIUMIU 美雨 
  • URL 
  • 2016.01/15 21:31分 
  • [Edit]

感動しました。 

たった24年の短い一生でも、後の世までも名を残される素晴らしい人生を送られる聖女イサベル様に感動しました。
美雨様の文章力と聖女イサベル様の絵画で、心温まる世界に浸ることができました。
私も聖女イサベル様のように、人生の長短は関係なく、魂は不滅だと信じたいと思います。
  • posted by そら太朗ママ 
  • URL 
  • 2016.01/15 09:21分 
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Author:MIUMIU 美雨
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